自動運転技術で描く未来は? トヨタの自動運転 Part.2
しかしながらトヨタは、ここまで出来ていても尚、「Highway Teammate」という車名に表れているように、自動運転は現時点では自動車専用道に限られ、しかも完全にクルマ任せにするということはしない。人間とクルマは、まさにチームメイトとしてともに運転に携わるというのが、その考え方。状況に応じて、その関与の割合は10:0〜0:10まで断続的に変化するが、運転をクルマに委ねっぱなしにするということは、現時点では考えられていない。もちろん、現時点では法規上の理由もあるが、よく喧伝されているように、自動運転になったら新聞読みながら寛ぐといったことは、基本的には無い、とされているわけだ。
それを聞いて通信社系の記者などは、一般道を含めた自動運転が想定されていないのは、他社より劣っているのではないかなどと質問をしてもいたが、トヨタ自動車のCSTO(チーフ・セーフティ・テクノロジー・オフィサー)として先進安全技術、自動運転技術の総責任者の立場にある吉田守孝専務役員は「車速の高い自動車専用道で、一般車との混在ができるレベルに来ているというファクトから判断してください」と応えていて痛快だった。その裏には自信があり、またテストコースで出来ているからってリアルワールドで出来ているわけではないよ、という意味も、きっと含まれていたはずである。
実際、現状では自動運転はたとえ自動車専用道に限っても決して簡単ではない。たとえば車線変更。今回はうまく行ったが、実際の状況によってはクルマが数珠つなぎになっていて入れなかったり、あるいは意地悪されて入れてもらえないなど、色々なことが起こり得る。その場合、実験車は運転のバトンを人間に返すようになっている。
事故などの突発的な状況への対応だってそう。コーナーを抜けたらミニバンが衝突していて、人が外に出ていたとする。隣車線には大型トラック。さて、どこに避けたらいいだろう? 人を避けてクルマに? ではそのクルマの後部に人の姿が見えたら? 人間ならクルマとの衝突を避けて壁にぶつけて減速しようとするかもしれない。しかし機械がそこまで判断はできないだろう。新聞を読んでいる場合ではない。
こうした状況まで完璧にコントロールできるようになるまでには、まだ相当な進化が必要だろう。これだけスムーズな自動運転技術を開発しているトヨタが、軽々しく自動運転を喧伝しないのも、大いに説得力がある。
要するにトヨタは、自動運転そのものを目的としては考えていない。その技術につけられた名称は「Mobility Teammate Concept」。もちろん、将来的にそこに到達できるよう開発を進めるにしても、まずは第一義として目指すのは安全で快適、自由な移動。そのためにはまず“高度な認識・予測判断を行う「運転知能」”、“車車間・路車間通信を活用し、安全運転を支援するITS Connectを始めとした「つながる」”という領域があり、その先に“ドライバーの状態認識、ドライバーとクルマの運転の受け渡しなどを行う「人とクルマの協調」”があると定義されている。
自動運転技術は、その「人とクルマの協調の段階」の技術。クルマを人間のパートナーとして迎え、ともに運転に携わる。人間の疲労を和らげ、判断不足を補い、あるいは操作自体もアシストすることで、それを実現していく。その過程もしくは延長線上に自動運転があるという考え方と言えるだろう。
この態度は、世界一の自動車メーカーとしての責任感から来るものだろうか。とても腑に落ち、共感を抱いた次第だ。昨今の自動運転を巡る論議に抱いていた違和感が、スーッと解消された。そんな気がしている。
自動運転とは一体何なのか? どこまで出来れば「自動」の運転だなんて簡単に言えるものではないし、手を離してもクルマが走ったからそれで素晴らしいという話でもない。ゆめゆめ論点を見誤らないように……。