トヨタが東京2020オリンピック・パラリンピックでモビリティ社会の未来を提案

 オリンピック、パラリンピックのワールドワイドパートナーであるトヨタが、2020年開催の東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(以下“東京2020”)にて、“単なる車両供給の枠を超えた”と謳うモビリティソリューションの提供を行なうと発表した。様々なところで言われてきたように、東京2020は、日本が、あるいはトヨタが、世界に向けて未来のモビリティ社会の展望を示し、問いかけるための重要な場となりそうだ。
 もっとも注目されるのは、2018年1月のCESで発表されたe-Paletteと、その運行システムの提供だろう。選手村での選手、大会関係者の移動はこれで行なわれる。トヨタの提案するモビリティサービスを、世界中の関係者が実際に体感することになるわけである。
 バリアフリーなモビリティの提供として、福祉車両ウェルキャブのほか“今後公表予定のパーソナルモビリティ”の提供も行なわれる。障害者の積極的な行動を支援する新たなかたちのパーソナルモビリティが登場するのだとしたら、その内容には期待が高まるところだ。

 実はヒントはすでに示されている。2017年の東京モーターショーに出品されたConcept-愛i RIDEだ。全幅を1300mmに抑え、ガルウイングドアを採用することで、車椅子ユーザーが1台分の駐車枠内で余裕で乗り降りできるよう考えられた小型EVは、十分にその役目を担える可能性がある。
 大会スタッフ用には“立ち乗り型モビリティ”や、i-ROADなどの小型モビリティを提供ともある。トヨタの立ち乗り型モビリティと言えば、2016年には公道実証実験も行なわれたウイングレット、そして2017年の東京モーターショーで発表されたConcept-i愛WALKなどが思い浮かぶが、敢えてそれらの名が使われていないということは、ここでも何か別の提案があるのかもしれない。

 これら実際に使われるもののほかに、臨海副都心地区、羽田地区の特定エリアでの自動運転(SAEレベル4相当)の実証実験やデモンストレーション、AIによるエージェント機能を備えたTOYOTA Concept-愛iのデモンストレーション走行が行なわれる。また、大会公式車両以外にも、SAEレベル2相当の、高速道路や自動車専用道路での一部自動走行を可能とする車両の導入も行なわれるという。
 デモンストレーションについては、見せるだけなのか、実際に試すことができるようになるのかなど、詳細はまだ不明。しかしながら、未来のモビリティへの道筋を世界に向けて示す、絶好の機会になるはずだ。
 以上は言ってみれば、新たなかたちの移動のあり方の提案。テーマとしては「すべての人に移動の自由を(Mobility For All)」を掲げられている。そして、もうひとつの軸となるのが「水素社会の実現を核としたサステナビリティ(環境・安全)」というテーマである。
 トヨタは東京2020に、3千台以上の大会公式車両を提供する。それを通じて「環境負荷の低減や、最新の安全および自動運転技術による交通事故の低減に寄与したい」という。

 こちらの目玉はFCVのMIRAIを公式大会車両として提供すること。更に、FCバスのSORA、豊田自動織機製FCフォークリフトも投入する。その他、FCV、EV、HV、PHVを中心とした車両提供により、これまでの大会で最高レベルの環境負荷低減を目指すという。見逃せないのは「FCVやEVに加え」という文言。何らかのかたちで、ここにはEVも用意されるということだろう。あるいは前述のi-ROADなどのことを指しているのかもしれないが…。
 更に気になるのは、プレスリリース記載の「大会公式車両には、予防安全パッケージ「Toyota Safety Sense」、「Lexus Safety System +」や、主に駐車場で発生する事故予防に寄与する「パーキングサポートブレーキ(PKSB)」などの最新の安全装備を搭載」という文言だ。珍しいことは書いていないようだが、現時点でMIRAIには、これらは設定されていないのである。つまり、これは2020年までにMIRAIのアップデートが行なわれると解釈していいはずである。

 安全で効率的な大会関係者輸送の実現のためのトヨタ生産方式の活用というのも興味深い。大会公式車両にはDCM(車載通信機)が搭載され、走行データを収集。これをビッグデータ化し解析することで、それに貢献するという。
 オリンピック、パラリンピックにおいて、初めてのモビリティ領域でのワールドワイドパートナーとなったトヨタ。東京2020では、いよいよその意味、価値が世界に示されることになる。
島下泰久