日産自動車とDeNAの「Easy Ride」はどんなモビリティの未来を運んでくるか?

日産自動車とDeNAが、2020年代の早い時期のサービス提供開始を目指して共同で開発を進めている無人運転車両を使った新交通サービス「Easy Ride」。3月5日より始まる一般モニターが参加可能な実証実験に先立ち、その実験車両に乗ることができた。
DeNAのもつインターネットとAIを活用したサービス設計、運営ノウハウに、日産の電気自動車、自動運転、コネクテッドカー技術を組み合わせることで実現する「Easy Ride」が掲げるコンセプトは「もっと自由な移動を」だという。まずは一体どんなことを可能にするサービスなのか、簡単に紹介しよう。

スマートフォンの専用アプリで、たとえば「みなとみらいでパンケーキが食べたい」などのように、自分のしたいことを入力する。すると画面には近隣のパンケーキ屋の情報が表示されるので、その中から選んで「ここに行きたい」をクリック。所要時間が計算されて表示されるので、ピックアップの場所と時間を選んで予約を完了させる。
指定した時間になると、ピックアップ場所に「Easy Ride」と書かれた車両がやってくる。運転席には人影は無い。そう、無人の自動運転車である。アプリからドアロックを解除して、後席へ。シートベルトを締めると、クルマが走り出す。

走行中の車内では、ディスプレイモニターに目的地周辺の情報が表示される。スポット情報、イベント情報などの観光案内的なものもあれば、近くの店舗の紹介も。ここからクーポンを選んで自分のケータイにダウンロードすることも可能だ。
目的に着いたらクルマが自動で停止する。降りたら、クルマは自動で走り去るから、気にせず目的のお店に行けばいい。

いわゆるレベル5相当の無人自動運転を可能にするクルマは、現状では先代リーフをベースとしているが、サービス提供開始の際には、より適したクルマとされる。e-NV200のようなミニバンあるいは専用車両になるはずだ。
驚いたことが、ひとつ。赤レンガ倉庫前の交差点でこの車両、自動で右折を行なったのだ。先日の公道走行実験の際には、対向する交通があり、右折信号の無い交差点での右折は非常に難しく、道路側のインフラとの協調などが無ければ実現は難しいという説明だったが……。正しくは、右折信号の無い交差点でも、見通しが良いなどの条件が揃えば、自動での右折は可能だということなのだろう。
実証実験の際には、今回の試乗と同様、自動運転技術を搭載した有人の車両が使われる。無人運転となるサービス稼働時には、車両は遠隔管制システムの監視下に置かれ、またシステム的には多言語対応も行なわれる。

さて、実際に体験してみた「Easy Ride」だが、率直に言ってまだまだ実現までには課題が多いなと感じた。たとえば、これだけのシステムを稼働させるのには、相当なコストがかかることは容易に想像できる。また、サービスの充実度からすれば、現在の“人間が運転する”タクシー以上の料金設定になるだろう。自動運転の物珍しさという段階が過ぎた時に、果たしてそれを納得させられるだけのサービスを提供できるだろうか。
タクシーならば「ネットにはあまり出ていない、いい店無い?」なんて聞くこともできるかもしれない。しかしこのシステムで選ばれるのは、あくまでネット情報として掲載された店舗だ。店舗のロケーションだったり価格帯だったりにも拠るが、自分でネットで調べてタクシーなどで行けばいい、となってしまう可能性は小さくないと思う。安くて駅近のファーストフードだったら、わざわざコレで行く必要はないわけで、つまりは情報の質も問われてくる。仮に、サービス協賛店舗が検索上位に上がってくるようだと、その辺りは大いに不安だ。

もちろん、スポット検索から車両の手配、支払いに至るまですべてスマートフォンひとつで済ませられるとなれば、利便性が高そうなのも確か。特にローカルではない人には有用なものとなる可能性は高い。外国人観光客などにとっては、多言語対応であることも含めて、観光の際の大きな武器になるかもしれない。
ともあれ、まさに、そうした部分を含めてユーザーが、このサービスをどんな風に受容するのか、しないのか、それならばどう先に展開させるのかを知ることが、実証実験を行なう理由なのだ。疑念を解消するような、面白い、あるいは役に立つサービスが登場することを、まずは期待したい。
島下泰久