ニッサン最新の自動運転実験車、同乗で得た確信と課題。

ニッサンの最新の自動運転実験車に、2年ぶりに同乗試乗した。舞台は、前回にリーフをベースにした実験車に初めて乗せていただいたのと同じ、東京は有明周辺の高速道路と一般道、合わせて約20kmのコース。道中には、一般道での交差点の右左折、高速道路への合流、車線変更、Uターン等々のポイントがいくつも用意されている。
ボディサイドに「Pro PILOT」と大書きされた、インフィニティQ50=スカイラインがベースのこの車両は、車両周辺の状況認識のためにカメラ×12、ソナー×12、レーダー×9、LIDAR×6を搭載。更にトランクスペースには、それらを司るコンピューターがぎっしりと収められている。一般道上のスタート地点で実験車に乗り込むと、運転席の日産自動車株式会社 電子技術・システム技術開発本部/AD&ADAS先行技術開発部部長、飯島徹也氏が、ナビゲーションシステムの画面からルートを設定し、スタートを押した。操作は、これだけだ。

実験車はゆっくりと発進すると、次の左コーナーを抜け、次のT字路を右折。続く交差点を左折して、赤信号で停止する。青信号で発進すると、停車車両の脇をうまくすり抜けていき、首都高 豊洲ICヘ。通行可能なETCレーンを自動で選んで通過すると加速を開始し、左コーナーをスムーズに抜けると湾岸線へと合流していく。その際には本線上のクルマの流れを見て、うまく空いたスペースを見つけて速度を調整。ターンシグナルを点灯しながら上手に合流していった。
ここまで走ってくる間、運転席の飯島氏は運転操作、一切していない。それどころか、ほとんど助手席や後席の方に顔を向けて、動作や機能の説明をしている。このあと一度だけ、トラックが急に車線変更してきたのに対応してブレーキを踏んだことがあったが、あくまで念のための操作で、実際には自動運転のままで対応できたはずとのことだった。

実際、運転の精度は相当に高い。前走車、そして道路脇に停車している車両との間隔の調整や、コーナーでの操舵、ライン取りはとても滑らかで、定型句的に言えば、まるで運転上手な人の隣に乗っているのような感覚。2年前には交差点を、今思えばたどたどしい動きで左折しただけでも「できた!」と喜んでいたのに、もはやそのぐらいは普通にこなしてしまって、驚きの気持ちも不安も抱かなかったのだから、技術の進化に驚くばかりだ。飯島氏曰く「2年前のが3歳児くらいだとしたら、実験車は経験の足りない18歳くらい」とのこと。これにはHDマップの恩恵が大きいという。
隣の車線の車両が、不意に白線をまたいでこちらに寄ってきた時に、自然にブレーキをかけて車間を保っていることもあった。一度、こういう挙動を見ると、周囲をよく見ているなという安心感が高まる。
念のため記しておくと、実験車が実現しているのはSAE規格で言うところのレベル2自動運転である。つまりドライバーのセカンドタスクは許容していない。運転はあくまでドライバーの責任によって行なわれるものであり、車両はそれをアシストするというスタンスだ。トラックが急に車線変更してきた時のような場面で、車両側では対処しきれないと判断された場合、ドライバーがケータイでメールチェックなどしていたら、クリティカルな状況になる可能性は高い。精度の高い自動運転ができるというのとは別次元の話として、ニッサンはこれをあくまでレベル2として開発しているのだ。これは見識というものだろう。
葛西JCTで中央環状線に入り、その先の船堀橋出口でUターン。周辺の景色がめまぐるしく変わるUターンはひとつの鬼門だが、実験車は難なくクリア。改めてETCゲートをくぐり、中央環状線に入っていく。ここの流入で問題なのは、合流車線が短い上に、本線との間にコンクリートの壁があること。おかげでカメラやセンサーなどで、本線の状況を検知するのが難しいのだ。
現状では、本線交通車両との車速差が大き過ぎる時、車列の隙間をうまく見つけられない時には、合流は難しい。意外にも、特に速度15km/h以下と流れが遅く、しかもクルマが車間距離を詰めて並んでいる場合、クルマにはそれが壁のように見えて、車間を見つけられないのだという。

実験車は右車線へと自動で移り、湾岸線西行き方面へ。本線に合流してすぐまた豊洲IC方面に向かい、一般道に出る。出口車線から一番左側の車線へと2車線をまたいで移動。左折したのちにしばらく信号待ちし、右矢印信号で右折し、出発地へと戻った。現状、交差点での右折ができるのはT字路、もしくはこの赤信号+右矢印が出るところだけである。対向車線のクルマその他を正確に検知して、その間を縫って右折することは不可能なのだ。
この見通しの悪い場所での合流や、交差点での通常の右折には、インフラの整備が必要だと飯島氏は言う。道路側で状況をセンシングして、車両に送るのだ。車載通信機が普及すれば、車車間通信で賄えるため、インフラに頼る必要はないという考え方を、飯島氏は否定する。通信はすべてのクルマで行なわれなければ意味が無い。しかし、路上を走るすべての車両に通信機が備わるようになるとしても、それには数十年はかかるからだ。ましてバイク、自転車などの存在もあると考えれば、これはほぼ不可能に近いとすら言ってもいいかもしれない。
一方、時間のかかりそうに思えるインフラ整備は、実は受益者負担で進めるならば案外、可能性は高いかもしれない。受益者つまり自動運転機能を搭載したクルマのユーザーが何らかのかたちで一定額を払う、もしくは高速道路料金に含めるなどすればいいからだ。国はルールづくり、国際協調に専心すればいい。もちろん、そうした方向に行政を動かすためには、その必要性が世間に広く浸透する必要がある。その社会的利益をメーカーは広くアピールしていくべきだろう。
今回の実験車の機能、ニッサンは2020年にも実用化可能という。その際に現状のカメラ、センサー類がどこまでまとめられるのか、トランクスペースいっぱいの頭脳はどれだけコンパクト化できるのかは楽しみなところ。この2年での想像以上の進化を思えば、それはまったく不可能なことではないだろうなと思えたのだった。

文:島下泰久