テスラ本社ファクトリー訪問 Part.2 〜クオリティへのこだわりが意味するものは〜
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アルミの板が接合されて自動車の車体になったら、次は塗装だ。イーロン・マスクCEOの塗装は非常に重要という考えの下、ペイントショップには最新鋭のロボットを多数導入して、ハイクオリティな塗装が行なわれる。一方、水の使用量を従来より実に82%、排出ガスを97%抑えるなど、環境にも最大限に配慮されているという。
もちろん、ここでも活躍するのはロボット。その機敏で正確な動作により、塗装工程には週に1万台のペイントも可能なほどのキャパシティがあるということだ。モデル3導入などにより当面、年産50万台を目指すテスラには、当面は十分と言える。
続いては美しく塗装されたボディに、いよいよ各パーツが取り付けられていく。ここはゼネラルアッセンブリーエリアだ。車両はベルトコンベアに載せられるのではなく、1台ずつ台座のような形のロボットに載せられて移動する。このロボットは床面に磁石で引かれたラインに沿って、自動的に移動していく。
興味深いのはパーツ内製率の高さだ。たとえばテスラ、シートは自社製である。モデルXのシートを製造しているのは、ここから2マイルほど離れただけのところにある工場。詳細には明るくないが、GM〜NUMMIという経緯からすれば、周辺には多くのサプライヤーが残っていてもいいはずであり、ここもあるいはそうした会社のひとつだったのかもしれない。しかしながら内製にこだわるのに理由があるとすれば、それは開発から生産にかけて、あるいは改善が必要な局面での対応に於いてのスピード感が、それに値するのだろう。
実際、担当者の説明ではテスラの車両は少なくとも週に1度程度は何らかのアップデートが行なわれているという。市場の声、現場の声を速やかに反映させて、車両を改良しているのだ。シリコンバレーのスピード感という言葉は安っぽくて使いたくないが、この辺りは確かに、そういうものかもしれない。
工場内の、この訪問の頃にはまだ空いていたスペースは、すでにモデル3生産のために整備されたはずだ。更にテスラファクトリーは数年内に現在のほぼ倍の規模へと拡張する計画も明らかにしている。更に言えば、需要が急速に高まっている中国での工場建設も報じられた。もちろん、巨大リチウムイオンバッテリー工場のメガファクトリーにも触れないわけにはいかない。この世に現れて、まだ10数年の自動車メーカーが、この勢いでどこまで成長していくのか。興味は尽きない。
一方、生産工程を実際に見て感心したのは、そのクオリティへのこだわりである。巷には「IT屋が作ったクルマ」への批判的な声、まだまだ少なくない。しかしながら実際にはこの通り、既存自動車メーカーもかくやというクオリティで、彼らのプロダクトは生み出されている。
この事実は裏を返せば「EVは部品点数が少なく、既存自動車メーカーの強みであるすり合わせの要素が少なく、よって参入が容易」という、これまた巷にあふれる論調が妄言に過ぎないことを明らかにしていると言えるだろう。EVとしての旨味、先進性だけでなく、自動車としてこれだけの質を持っていたからこそ、テスラは成功した。フリーモント工場では、そのことを改めて実感させたのだ。
島下泰久