ダイソンがEV参入! 2020年発売へ
斬新な技術、スタイリッシュなデザインの空調家電、コードレス掃除機などで知られるイギリスのダイソン社が、EVへの参入を正式に発表した。かねてより研究開発を続けてきたバッテリー技術が、そのカギだ。
実はダイソンは以前、大気汚染の広がりへの危機感から、ディーゼル自動車の排気システムへの取付可能な粒子状物質捕集サイクロンフィルターの開発に着手しており、実用レベルの試作品が完成するまでに至っていた。しかしながら当時、このシステムへの関心は低く、結果的にプロジェクトは中止に追い込まれたという。
確かに当時のヨーロッパではNOx、PMよりもCO2削減の方が優先されていたのは、EU1に始まる排ガス規制を見ても明らか。この辺り、日本とは異なる状況だったと言っていい。
下の2点のイラストメモは、そのシステムの構想段階のもののようだ。
そこでダイソンは方針を転換。新しいバッテリー技術を開発し、電気自動車によって大気汚染問題を解決すると決意した。そうして開発された最新のモーターやバッテリーが、コードレス掃除機、ヘアドライヤーなどの商品に使われているのは、ご承知の通りだ。また、独創の技術で生み出された空調家電には、最新の流体力学が活用されてもいる。
そうして、排ガスをクリーンにするのではなく、排ガスを排出しない自動車を作り出す。その決意が9月26日、ダイソン社 チーフエンジニアのジェームズ ダイソン氏より全社員に対して、遂に明らかにされたのだ。
その上でダイソンは、自動車業界出身者を含めた現時点で400人を超えるチームを編成して目下、開発を進めている。また現在も積極的なリクルーティングを進めているという。投資額も20億ポンド(約2900億円)に上るというから大きなプロジェクトであることは間違いない。
これ以上の内容は現時点では不明。しかしながら2020年の発売を目指しているというから、概要が明らかになってくるまで、そう時間は要さないだろう。
ダイソンと言えば、空調家電にしても掃除機にしても、いわゆるコモディティ商品、あるいは白物家電などと呼ばれるものを、見事ライフスタイル商品へと昇華させた稀有なブランドである。造形という意味でのデザインに優れるのはもちろん、使うだけで歓びが感じられ、見ているだけで、持っているだけで嬉しい。そして、ともにある生活を確実に変化させてくれる、そんなまさにダイソン製品のようなクルマが生まれるなら。しかも、それが環境負荷の低減に繋がるものであるならば、これはもう期待しないわけにはいかないだろう。
「EVは部品点数が少なく、既存自動車メーカーの強みであるすり合わせの要素が少なく、よって参入が容易」などというのは、もちろん事実ではない。一方でテスラであったり、こうしてダイソンのような企業がEVによって新たに自動車産業に参入しようとするのは、EVは作るのが簡単だからなどではなく、人の暮らしを良きものに変化させるイノヴェーションのチャンスが、クリエイティブの向かう先が、そこにあると判断したからに違いない。
さて、ではダイソンのEVが一体どんな風に私たちのライフスタイルに刺激を与えるクルマとして生み出されるか。興味津々見守っていきたい。それにしても……既存の自動車メーカーにとっては、あるいはテスラ以上に厄介なライバルの登場である。
島下泰久