新型プリウスPHVの発売で日本の充電インフラが崩壊?
いよいよ今月に発売を控えた新型プリウスPHV。2代目となる新型では、200Vの普通充電だけでなく高速道路のPA/SAやショッピングモール、コンビニなどに設置されているチャデモ方式の急速充電にも対応しており購入検討者としては嬉しい限りですが、一方で既存のピュアEV、つまり日産リーフや三菱i-MiEVのユーザーなどはプリウスPHVの登場で、出先の急速充電器が渋滞しすぎてピュアEVが使い物にならなくなってしまうと悲観の声を上げているのが知られざる事実。
例えば、高速道路を使って遠出をする場合、東京を出発して上信越道でスキーに行くと考えると新型の30kWhバッテリーを搭載した日産リーフでも150km程走った横川サービスエリアなどで充電が必要になって来ますが、この充電器がプリウスPHVによって埋まっていると、もはや次のSAまでは走れないし一般道に降りても近くに急速充電器がなければただひたすら待ち続けるしかなく、しかもプリウスPHVユーザーが時間通りに戻ってこなかったり、ましてやサービスエリアに到着した時点で2台並んでいたら…ということを想像すると、ものの1年で日本国内を走っているすべてのEVとPHVの総数(参考:乗用車で62,136台。2016年3月末、(一財)自動車検査登録情報協会調べ)と並ぶ程の台数を1年程で販売すると思われるEV・PHV界の黒船、新型プリウスPHVがやってくるとどんな事になってしまうのかと悲観してしまうのも、さもありなんと思われます。
しかし、ここに来て新しい情報が1週間ほど前に出てきました。高速道路のサービスエリアやコンビニ、ショッピングモールなど国内ほとんどの充電スポットを使うには、NCS(日本充電サービス)対応の会員カードを持つ必要があります。会員カードなしでも充電は出来ますが、面倒な上に充電料金も30分1500円と電欠寸前の緊急時以外の用途は考えていない価格設定。
新型プリウスPHVも高速道路などで急速充電を使用するには、一般的にトヨタが発行するNCSカードの会員になるパターンが一番多いと想定されますが、驚くべきはその価格設定。
上記のトヨタ公式サイトの画像の通り、定額プランと従量プランの2種類急速充電対応カードが用意されるのですが、定額プランで定額となるのは急速充電ではなく普通充電のみでその月会費は1000円。従量プランはなんと月会費0円となっています。
そして、急速充電器を使用した際の料金は、どちらの会員プランでも16.2円/分。日産のZESPの充電し放題プランでは高速道路や道の駅のNCS互換充電器は無料、三菱のプレミアムプランでは8円/分であるのに対して、かなりの割高な料金設定となっています。
この16.2円という料金設定が肝で、8.8kWhの駆動用バッテリーを搭載して60kmのEV走行距離を目標値として公表しているプリウスPHVなので、1kWh辺りの航続距離は6.8km/kWh(60/8.8)となる。20分の充電で80%まで充電可能なので、充電料金324円で充電出来る電力量は7.04kWh(8.8*0.80)。
ようするに324円で、カタログ値47.8kmを走行出来るという計算になります。レギュラーガソリン1リッター辺りを直近の値上がりも踏まえて150円(消費税抜)と考えると、新型プリウスPHVのカタログ目標燃費は37.0km/Lなので、税込み324円、つまり2リッターで走行出来る距離はカタログ値で74km。高速道路のSAで充電するよりもガソリンハイブリッドモードで走り続けた方が遙かにお得という現実が見えてきます。
この価格逆転現象がイーブンとなるのはレギュラー価格が195円(つまり、都内での2007年の史上最高値段とほぼ同等)となるので普通に考えて逆転することはそうそうあり得ない値段に設定されています。この設定では、納車直後の急速充電する事が嬉しい時期を除いては、日常的に高速道路の急速充電設備を使用するユーザーは皆無と思われます。
将来的に電気自動車を投入することも明言しており、日本の自動車業界の盟主であるトヨタですから、業界各社が共同出資して設立したNCSの料金設定に関しては相当に他社ユーザーの動向を吟味したと思われます。この価格設定には、トヨタ車のグレード別価格設定の絶妙さ以上の絶妙さを感じてしまいます。
現実世界では、一足先に普及型国産PHVとして三菱のアウトランダーPHVが普及していますが、こちらの充電料金設定は、高速SAで20分充電するとほんの少しガソリンで走るよりもお得という料金に設定されており、発売当初は多くのアウトランダーPHVで高速SAが充電渋滞という事もありましたが、遠出の際はエンジン走行というPHV本来の使い方に気がついたユーザーが多いのかSAで充電するアウトランダーは少なくなってきています。
もう一つのガソリンエンジン搭載で急速充電可能なPHV、BMW i3REXはそもそも絶対数が少ない上に直近までメーカーからNCSカードが発行されていなかったため高速道路の急速充電施設で見かけることは皆無です。
発売直後に、少しの混乱は見られるかもしれませんが長期的には新型プリウスPHVの登場によって、急速充電インフラが壊滅?とはまったくならないということが予想されます。
となると、新型プリウスPHVに装着された急速充電機能は意味がないのでは?そして、そもそもガソリン走行の方が安いのならPHVではなく普通のプリウスで良いのでは?という話になりがちですが、充電料金含めて深く読み解いていくと、次の標準はPHVとまで言い切ったトヨタの深い考えが浮かび上がって来ます。
Part.2に続く
文:編集部