ソーラーパネル搭載プリウスPHVのモビリティ革命

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太陽の下に駐車しておけば、晴れた夏の日で最大6kmほど走行出来る電力が充電できるという市販車初のソーラーパネル充電システムがオプション採用される新型プリウスPHV。そのソーラーパネル充電システムが如何に凄いのかを開発担当エンジニアの方に伺ってみた。
新型プリウスPHVには8.8kWhのリチウムイオン駆動用バッテリーが搭載されるが、先日、晴れた週に空の状態から充電してみたところ、1週間でほぼ満充電まで持っていけたという実験結果を担当エンジニア氏が教えてくれたが、新型プリウスPHVは駆動用バッテリーを満充電の状態で60km電気のみで走行出来るため、つまりこれ、自動車は週末の近所の買い物にしか使わないというユーザーで、なおかつ駐車場は青空という人は、プラグイン充電もガソリンも必要なく晴れた夏なら完全ゼロエミッションで走れてしまうという事である。
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搭載されるソーラーパネルはパナソニック・オートモーティブシステムズ製の180W単結晶シリコン型のセミフレキシブルソーラーパネルで、本来のプリウスのルーフの形状を一切スポイルせずに装着されており、工場オプションだけあって後付感は一切ない。
普及型の高性能ソーラーパネルの代名詞とも言える単結晶シリコン型だが、ソーラーパネルに詳しい人なら、「一部に日陰が差した時に極端に電流量が落ちるのでは?」と思い浮かぶ筈だ。担当エンジニア氏に伺っても「単結晶シリコンなので、一部が日陰に入ると電流が落ちるのは間違いありません。しかし、自動車の使用条件を考えた対策はしておりまして…」と語る。実に、180W出力のソーラーパネルだが、1つのユニットではなく、8つの独立した回路の22.5Wソーラーパネルを8個搭載しており、例えば落ち葉などがルーフに落ちた状態でも発電量が無くなるのは8ユニットのうちの1つだけという仕組みになっている。
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日常のメンテナンスでは埃などは発電能力には大きな影響は及ぼさないので、頻繁な洗車は求められないが、日陰が掛かる場所、つまり、橋桁やビル、木陰の下などに停めておくことは発電量に大きな影響を及ぼすとのことだ。
こうしてソーラーパネルが発電した電力は直接駆動用バッテリーに充電されるのではなく、一旦、センターコンソール下に設置されたソーラー充電専用のニッケル水素サブバッテリーに蓄えられる。このサブバッテリーの容量は公表されていないものの数十Ahとの事で、軽自動車のスターターバッテリーよりも小さな容量のものが採用されている。ここに一旦充電し、溜まった状態で駆動用バッテリーにDC昇圧回路を介して充電。サブバッテリーが再度溜まったら、また駆動用バッテリーを充電。ということを繰り返す。
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そもそも駆動用バッテリーを起動した状態ではバッテリーマネジメントシステムなどの待機電力だけで数十Wを消費してしまい、最大180Wの発電量では効率的な充電が行えないためこの仕組みを採用したという。雨の日に降ってきた水を小さなバケツに溜めて、取水口を開けると微妙に水が外に流れてしまう大きなプールに一度に流す→小さなバケツに溜めて、大きなプールに流す。ということを繰り返していると想像してもらえると解りやすいだろう。
そのような動作を繰り返していると、ものの数年でニッケル水素サブバッテリーが弱ってしまうのではないかと思われるが、その点については自動車の耐用年数と同じぐらいの耐久性は持っているとの事。
なお、ソーラーでの駆動用バッテリーの充電は走行時には行われず、走行中は車内の電力を維持するために使われている12Vバッテリーの充電に使われるとの事。気になるオプション価格だが、まだ一切公表されていない。
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まったくの余談だが、南向き仰角30度に置いた場合の、ソーラーパネルの年間平均充電量は国内の地域差を考慮しない状態で、(定格出力×1000時間)程度が目安とされているので、充電損失(25%程度と想定)を考慮した上で理想的な駐車位置で年間135kWh程度充電が可能。実質的には100kWh、晴れが多く理想的な都道府県に駐車した場合で200kWh弱と考えるのが妥当だろう。
8.8kWhの駆動用バッテリーで約60kmの走行を可能にするプリウスPHVの電費は6.81km/kWh(60km÷8.8kWh)。想定年間発電量の100kWhで走行出来る距離は約680kmと、ソーラールーフ発電だけで実用的な走行航続距離を得るにはプリウスPHVを10台程所有する必要がある。
とはいえ、例えば沖縄の離島のようなそもそも1日の走行距離が数キロで、かつガソリンは高価でなおかつ入手できる時間も限られる、住宅の路地は狭く駐車場は集落の共同駐車場というような地域なら、十分に実用的な機能。
また、新しいプリウスPHVにはChaDeMo急速充電機能が装備されるが、電気自動車ユーザーなら知っての通り急速充電器での充電は容量の80%を超えると極端に充電スピードが遅くなる。ソーラーパネルをオプション装着すれば、この最後の20%をソーラーで補うことで、例えば15分間急速充電器で充電した後は駐車場に移動して駐車しておくなどの方法で、急速充電の苦手な部分を補完出来るとも考えられる。
経済的な面では、ソーラーパネルの発電量で装着にかかるコストをペイすることは難しいが、車載ソーラーパネルで充電した電力で公道を走行出来る自動車が遂に出てきたという事が自動車のサステイナビリティにとって大きな一歩であり、ソーラーパネルで充電したエネルギーなら無駄使いはせず節電を心掛けて走ろうという意識も生まれる筈である。
文:編集部