最新自動車トレンド全部乗せの“EV”で“SUV”。ジャガー「I-PACE」を試す Part.1

 ポルトガル南部のファロで開催されたジャガーI-PACEの国際試乗会は、いつものジャガーの流儀で2日間に渡って何百kmも、お腹いっぱいになるほどの走行時間が設けられていた。それでも、容量90kWのリチウムイオンバッテリーを積み、最大航続距離は480kmに達するI-PACEは、電欠の心配など一切必要とすることなく、心ゆくまで走りを楽しませてくれたのだ。
 そこから感じたのはジャガーの、自動車メーカーとしてのプライドである。例えばこのI-PACE、開発には多くの時間と手間が割かれている。200台以上のプロトタイプが作られ、テスト車の走行距離は延べ240万km。リグテストには1万1千時間以上がかけられたという。EVであろうと自動車メーカーの本来の仕事とは、こういうものだろう。それを改めて実感した今回の試乗だったのである。

 そんなI-PACEを語る上では、自動車のグローバルマーケットに於ける2大トレンドである電動化そしてSUVというふたつのキーワードが、まず念頭に置かれる。特にプレミアムメーカーにとっては、ここは外せないポイントだ。
 未だ普及のフェイズにまでは至っていないとは言え、各メーカーともEVの開発を宣言し、あるいはEV専用ブランドを立ち上げるなど、EV化への潮流は確かなものとなりつつある。一方、SUVのセールスが急激に伸長していることは、それこそ街を行くクルマたちの傾向を見れば、これまた明らかだ。実際、ジャガー自身にとってもブランド初のSUVとして発売したF-PACEは、世界的ヒットによってブランドのシェア、そして認知度を飛躍的に高めることとなった。
 I-PACEは、このふたつのトレンドを融合させて、ブランドが最先端の位置にいることを強くアピールしたいという思惑の下で生まれた“EVのSUV”である。ドイツ勢を筆頭とするライバル達に先んじての一撃であることも、興味を惹くところだ。

 新しいマーケットを切り拓くのが狙いなだけに、I-PACEはルックスも実に攻めている。きわめて短いフロントフードは往年のジャガーのイメージとは180度異なるところだし、Aピラーが前に出されたキャビンフォワードのハッチバック・クーペフォルムに最大22インチの大径タイヤ&ホイール、4682mmの全長に対して2990mmもの長さが取られたホイールベース、大きなグラウンドクリアランスの組み合わせは、いかにも未来的と言いたくなる雰囲気を醸し出している。
 未来的などとベタな言葉を使いたくなるのは、そのフォルムがフロントにエンジンを積んでいないことを雄弁にアピールしているからだが、一方でフロントグリルは他のジャガーと同じく大きく口を開けている。しかしながら、これはアイデンティティの主張だけが理由ではない。EVだってPCU(パワー・コントロール・ユニット)やモーター、そして駆動用バッテリーなど、冷やさなければならないコンポーネントが大量に搭載されているからである。

 ジャガー自身が「ブランドのニューチャプターの始まり」とするスタイリングは正直、最初は奇異にも思えたのだが、中身の新しいわりに表現はクラシカルなテスラ モデルSなどと較べれば、求めた要素がストレートにカタチになっているすがすがしさのようなものがあるのも確か。眺めるうちに気に入ってきた。但し、たとえば男性は好きなBMW i3を受け入れられないという人が多い女性が、どんな反応を示すかは気がかりではある。
 そのボディは全体の94%をアルミニウム製とし、リチウムイオンバッテリーをフロア下に搭載することで重心高の低下、ほぼ50:50という前後重量バランスの最適化を実現している。Cd値は0.29と優秀。捻れ剛性値は36000Nm/deg.と、スポーツカーのFタイプにも匹敵する高剛性を誇る。

 電気モーターは前後にそれぞれ1基ずつ搭載されている。スペース効率の良い中央をドライブシャフトが貫通するレイアウトで、前後合計で最高出力400ps、最大トルク696Nmと、V型8気筒のスーパーチャージャー付きユニットに匹敵する数値を発生する。車重は2.1トンを超えるが、静止状態から100km/hまでの加速は4.8秒という俊足ぶりを誇る。最高速は200km/hという設定だ。
 パウチセル式のリチウムイオンバッテリーは432のセル、36のモジュールからなり容量は90kWの1種類。航続距離はWLTPモードで最大480kmとなる。日本仕様はCHAdeMO急速充電に対応しての上陸となるが、バッテリー容量が大きいだけにこの充電所要時間という要素こそが、一番のネックとなるかもしれない。

Part.2へ続く

島下泰久