トヨタ、ル・マン24時間優勝の大きな意義と価値

遂に、遂にこの日がきた! ル・マン24時間レースでTOYOTA GAZOO RACINGのトヨタTS050 HYBRID 8号車(中嶋一貴/セバスチャン・ブエミ/フェルナンド・アロンソ)組が優勝を飾ったのだ。しかも、2位には7号車(小林可夢偉/マイク・コンウェイ/ホセ・マリア・ロペス)が続く、1-2フィニッシュである。

トヨタのル・マン挑戦はこれまでいくつもの壁にぶち当たってきた。今も衝撃をもって思い出されるのは、2016年のレース。快調にトップを走り、24時間まで残り3分となったところで、マシンが何とスローダウン。結局マシンは、あろうことかメインストレートのトヨタのピット前に力なく停止し、つかみかけていた栄光を逃してしまう。中嶋一貴選手の「ノーパワー!」という無線の声の悲痛さといったら……。

ポルシェのホスピタリティで観戦していた筆者は、この瞬間に優勝が転がり込んできたはずのポルシェのホスピタリティですら重い沈黙に支配されたことをよく覚えている。ル・マンとは、そういうレースなのだ。

しかも、雪辱を期した2017年も、トラブルや戦略で完敗。これについては同情の余地なしというところではあったが、ともあれ今年は実に20回目の挑戦となっていた。

今年のWEC(世界耐久選手権)最高峰のLMP1クラスは、アウディに続いてポルシェが撤退したことで、ハイブリッド車での参戦となるワークスマシンはトヨタの2台に限られていた。それだけに下馬評としてはライバル不在という声もあったが、それは間違いだと言っておきたい。

参戦を表明した数多くの、ノンハイブリッドマシンを駆るプライベーターチームにもチャンスがあるように、すなわちトヨタの圧倒的有利とならないよう燃料使用量が大幅に制限されるなど、今年のWEC、そしてル・マンは、トヨタとしては決して楽勝という雰囲気ではなかったのだ。

実際、筆者は先日、TMGのパスカル・バセロン副社長にインタビューしたのだが、今年のル・マンを戦う意味を訊いた筆者に、氏はこう即答している。

「ターゲットは簡単で、チャンピオンシップを争うことです。もちろん、これまでのように同じカテゴリーに競合が居れば、彼らを打ち負かすことがターゲットになりますが、今年は状況が変わりました。正直、我々のハイブリッドマシンが使える燃料は本当に少ないですから、レースを予想するのは難しいです。」

しかも、もし勝てなかった場合には、(状況をよく知らない世間に)批判にさらされるのは必至だったにも関わらず、トヨタは参戦を継続した。トヨタにとってWECは、勝負の場であるのはもちろん、ハイブリッドパワートレインの技術開発のためにも、重要な場と位置づけられていたからだ。最新のトヨタハイブリッドの、熱効率40%を超える市販ユニットは、まさにそのノウハウが活かされたものである。

ワークスのライバル不在のレースで勝っても意味がない? その声にも「ノー」と言っておきたい。もちろんアウディやポルシェを向こうに回して勝てれば、それも素晴らしかったのは間違いないだろう。しかし今回も、上記のように戦う理由は十分にあり、そしてまた確かなコンペティションがあった。

更に言えば、ここでトヨタも「じゃあウチも」と撤退していたならば、世界のモータースポーツ界での存在感は間違いなく低下していただろう。思い出してほしい。かつてアウディは、それこそトヨタやプジョー、ポルシェが参戦してくるまでの間、ずっとトップカテゴリーで、唯一のワークスとして戦い続けてきた。そしてル・マンの価値を守り続けてきたのだ。今のトヨタは、そういう役割を果たしている。それは我々としては、誇るべきことでしかない。

筆者はWECというレースの魅力に取り憑かれ、そしてそこにトヨタ自動車が参戦する意義は大きいと感じ、ずっとその活動を支持し、多くのメディアで記事を記してきた。昨年は、例年は株主総会との兼ね合いなどもあり訪れることができずにいて、初めて現地に激励に来た豊田章男社長に、お話をうかがうこともできた。WECやル・マン24時間でのトヨタの活動の意義を知らしめるのに、多少の力添えはできたのではないかと自負している。

それが、よりによって今年だけは現地に行くことができず、歴史的瞬間には立ち会えなかったのだが、それでも今は深い満足感を得ているところだ。トヨタには来年も、再来年も、新しいレギュレーションとなる再来年以降も、このレースにこだわり続けてほしいと願わずにはいられない。ハイブリッドのトヨタが、その技術を知らしめるには最高のレースが、ここにはある。

最後に改めて。
トヨタの皆さん、TMGの皆さん、おめでとうございます。

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島下泰久