電気の力で内燃エンジンの歓びを倍加。AMG“53シリーズ”は何がスゴい?

 ちょっと古い話になるが、NAIAS(北米国際自動車ショー)会場でインタビューしたメルセデスAMGのトビアス・ムアースCEOによれば、AMGが開発したシャシーに、メルセデス・ベンツ製でライン生産されるエンジンを搭載したエントリー版AMGと言うべき「43シリーズ」の設定は大成功となり、メルセデスAMGのグローバル販売は2017年には約13万台を達成したという。2013年には約3万台だったことを考えれば、驚異的なビジネスの拡大だ。
 その勢いに乗って登場したAMG 53シリーズは、AMG 43シリーズとはまったく異なる新開発のパワーユニットを採用する。まずはメルセデスAMG CLS53 4MATIC+から搭載されるのは、直列6気筒3ℓターボエンジン+電動スーパーチャージャー+ISG(インテグレーテッド・スターター・モーター)である。

 エンジンは単体で最高出力435ps、最大トルク520Nmを発生し、これに同22ps、250Nmのモーターアシスト“EQブースト”が加わる。ISGは減速エネルギーの回生によって電気を蓄え、それをEQブーストと電動スーパーチャージャーの駆動に用いる。
 さて、このパワーユニットの特徴である電動スーパーチャージャーとは一体どんな働きをするのか、説明しておこう。排気を利用したターボチャージャーは、大容量化すると低回転域での過給ラグが避けられない。話は単純で、大径タービンを回し切るだけの排気が得られないからだ。
 電動スーパーチャージャーが活躍するのは、まさにこの領域である。電気の力でタービンを回すことで瞬時に過給圧を高め、アクセル操作に対してラグの無い素早いレスポンスを実現。ターボチャージャーの過給圧が十分に高まったところでそちらにバトンタッチするのである。

 では実際の走りはと言えば、そのフィーリングは素晴らしいの一言。久々に復活したストレート6は、回転が至極スムーズで、実に粒の揃った上質なサウンドを響かせる。電動スーパーチャージャーだけでなくISGの効果もあってトルクもたっぷり。ゆったりと流しているだけでも、その豊かさに堪らない気持ちにさせられる。
 もちろん、ISGそして電動スーパーチャージャーが本領を発揮するのはアクセルペダルを深く踏み込んだ時だ。まさに右足に力を込めた瞬間、グッと背中を押されるようなダッシュが始まり、その勢いがどこまでも衰えない、その加速感は刺激的。しかもエンジンはトップエンドが近づくにつれて芯が出てくるかのように精緻な回り方になり、それに呼応するようにリニアにパワーが発揮され、突き抜けるような快感がもたらされるのである。
 そもそも90年代にV型に移行していた6気筒エンジンが直列レイアウトへと回帰することになったのは、ダウンサイジングの波の中で主流になってきた4気筒と6気筒の共有化を図るためだ。とは言え従来はV型6気筒が収まっていた空間に、直列6気筒を収めるのは簡単なことではないのは想像の通りである。
 それを可能にしたのは48V電装系の採用。エンジン自体の小型化に加えて、ウォーターポンプやエアコンなどをすべて電動化して、エンジン前部のベルト類を廃したことで全長の短縮が実現したのだ。
 それも含めて言えるのは、電気の力が内燃エンジンの歓びを新たな地平に到達させたということである。電動化が内燃エンジンを脇役に追いやるのではなく、むしろ更なる輝きを付与することに繋がっているだなんて、何とも痛快な出来事ではないだろうか?

 ちなみに、これとほぼ同様のエンジンが、すでに日本でも発売中のS450 4MATICにも搭載されている。違いはターボチャージャーのサイズで、こちらは最高出力が367psに留まる。CLSの場合では、CLS450 4MATICに積まれる電動スーパーチャージャー無しの直列6気筒3ℓターボ+ISGの組み合わせが、やはり最高出力367psを発生しているので、なぜSクラスには電動スーパーチャージャーが? と思ってしまうが、メルセデス・ベンツ日本によれば、Sクラスは車両重量があるため最高出力は控えめ、つまり大容量のターボチャージャーを使っていなくとも、電動スーパーチャージャーをセットしているとのことだった。

 前出のムアースCEOによれば「43シリーズの人気で裾野が拡大していて、結果として63の販売も増えている。この53シリーズは43と置き換わるのではなく、よりスペシャルティ性の高いモデルに搭載する」と言う。現在のところ用意されているのはCLSのほか、Eクラス クーペやカブリオレなど。これらには63シリーズは用意されず、このAMG 53がトップ・オブ・ザ・レインジとなるわけだが、こと味わい深さで選ぶならば63よりも53かも? というのが私の率直な印象だ。

島下泰久