「走りの質は上々。では買いかと言えば…?」 ホンダ クラリティ フューエルセル Part.3

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もっとも気になるポイントであるホンダ クラリティ フューエルセルとトヨタMIRAIの走りの差は? まず言えるのはいずれも両メーカーのセダンの中ではベストと言っても良さそうなほど、走りの質が高いということだ。

「あらゆる部分で、今までのホンダに無いものをつくろうと。新技術も、せっかくこういうクルマなんだから入れなさいよって言いましたね。結果的にアコードを超えるいいクルマになったと自負しています。」というクラリティ フューエルセルに、「環境車(エコカー)だから、走りは退屈などと言われたくない」というMIRAI。奇しくもともに、単に初の市販版燃料電池自動車というだけには終わらせないという意気込みで開発された結果である。

動力性能の面で、純粋に気持ちいいのはMIRAIだ。発進加速は滑らかで、十分にトルクがあるから普段は「ECO」モードでまったく不足を感じない。しかも、その後の速度の伸びも上々。日本の高速道路の速度域なら、ほとんどの人がきっと満足すると思う。

対するクラリティ フューエルセルは、立ち上がりはいいけれど、その後の伸びが今ひとつと感じられる。スペックを見ると、電気モーターの最高出力が177ps、最大トルクが300Nmとなっている。対するMIRAIは同154ps、335Nmで、印象と逆という気もするのだが、ここにはギア比なども絡んでくるので一概には言えない。実はクラリティ フューエルセルは最高速が165km/hに留まるのに対して、MIRAIはテストコースでの実測で180.5km/hを記録している。欧州市場まで見据えたこうした差異も、走りに影響しているのかもしれない。

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一方、シャシーの出来栄えはクラリティ フューエルセルに軍配をあげたい。ボディはMIRAIの方がしっかりしている感もあるが、こちらはサスペンションのダンピングが足りず直進性は甘いし、姿勢変化も小さくない。プロトタイプは良かったのだが、最初に納入された官公庁からの要望を汲んだ市販版は、低速域、リアシートの乗り心地に振り過ぎた感がある。転がり抵抗をシビアに削ったタイヤも、雨天時だけでなくドライでもグリップ感は頼りない。一方、しっとりとした乗り心地、リニアリティの高いコーナリングなどクラリティ フューエルセルの走りの質は高い。リアにMIRAIのトーションビームではなく、マルチリンクサスペンションを奢るなど、コストをかけた分はちゃんと反映されている。但し、燃費は微妙に不利になっている感は否めないが…。

さて、ではどちらが買い、どちらがお勧めなのかと言えば、まず使い勝手の面では、個人オーナーならば、5名乗車を重視するか、スーツケースが載るのを取るかで分かれるところかもしれない。走りは、動力性能ではMIRAIだが、シャシー性能ではクラリティ フューエルセルとなるだろう。デザインは好みだが、先進安全装備の充実度では、やはりクラリティ フューエルセルが上回る。

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それだけに惜しいのは、クラリティ フューエルセルがまだ一般には売られていないという事実だ。こんな拮抗した実力をもっているのに、なんともったいないことか。

今、個人オーナーにはMIRAIしか選択肢はない。とは言え、どれだけ待つことになるかと考えれば、ホンダが今、世に出す英断をしてくれればと思わずには居られないのだが……。インフラが整っていなかろうが、新しもの好きは絶対に買うし、そこに文句をつけたりはしない。トヨタがやって、ホンダがやらないなんて、どう考えても無しでしょう?

島下泰久